Best Moments
2025 6/14 (SAT)
DAY 3
平和を希求して Peace, Hope, and Roots & Shoots

「私の本当の平和への希望──それはRoots & Shootsにあります」
来日イベント最終日。この日は、世代や立場を越えて人々が集い、自然とともに“希望”を育むひとときとなりました。ジェーン博士の講演は、公開インタビュー形式で行われ、JGI Japanのイベントで通訳ボランティアとしてもおなじみのラジオパーソナリティ、ノイハウス萌菜さんとのFire Side Chatという形でお届けしました。
15:00
ジェーン博士 公開インタビュー



ゆったりと腰掛けるソファーに、リラックスした空間の中、まず始めに「会場の皆さまの顔が見えるように、観客の皆さんの照明を明るくしてくれる?」とジェーン博士。みんなの顔が見えた瞬間、とても嬉しそうに挨拶をし、「Peace, Hope and Roots & Shoots」と題した公開インタビューが始まりました。
博士の語りは、1歳半のころに、土の中のミミズに魅了され、自らのベッドに持ち込んだという思い出から始まりました。母親が「どうやって足もなく動くのか不思議だったのね」と受け止めてくれたこの経験が、好奇心を大切にする心の原点だったのだろうと博士は振り返ります。
やがて「アフリカで野生動物と暮らし、本を書く」という夢を抱くようになった10歳の少女は、努力と周囲の支えを糧にそれを現実にし、チンパンジーが道具を使うことを発見。科学界の常識を覆し、私たち人間が「特別である」としてきた境界線に問いを投げかけました。
「しかし、チンパンジーも戦争をすることを知って、私は心底ショックを受けました。でも、それは彼らが私たちに本当によく似ているということの証でもあった」と博士は言います。感情を持ち、愛し、嫉妬し、時に憎む──。人間と動物は分断された存在ではなく、ひとつながりの生命であるという視点を、博士は繰り返し強調しました。その視点は、世界のさまざまな戦争への考察へとつながります。
「私は5歳で第二次世界大戦を経験しました。空襲、そして戦後のホロコーストや広島・長崎の原爆投下……。人間の持つ“悪”を、あの頃私は確かに感じました」。博士は、今もなお続くガザ、ウクライナ、スーダン、コンゴなどの紛争に心を痛めながら、「それでも、行動するしかない」と語ります。
博士が1991年に立ち上げた若者の環境活動プログラム「Roots & Shoots」は、今や75以上の国・地域に広がり、幼児から大学生までの若者たちが地域に根ざした行動を起こしています。「ルーツ&シューツでは“人・動物・環境”の3つの領域すべてにアプローチしています」。それはゴミ拾いでも、植樹でも、地域の動物を守る行動でも、なんでもいい。自分が選んだ行動のどれもが、世界のどこかに届き、小さな希望の種となって芽吹いていくのです。
講演の終盤、博士は次のように語りました。「この地球に使命をもって生まれてきたと感じています。それは、私たちが他の動物たちとつながっている存在であると伝えること。そして一人ひとりの行動が、世界を変える力を持っていると信じること。そして、希望を伝えること。希望を伝えることは、年々難しくなっています。それでもあきらめるわけにはいきません。だから、私は生涯伝え続けるのです」
15:45
Roots & Shoots プレゼンテーション! 若者たちによる発表


横浜インターナショナルスクール 初等部 Yokohama International School Elementary School
横浜インターナショナルスクールの小学校Roots & Shootsチームでは、36名の児童が学年を越えて協力しながら、環境・動物・人々のためにさまざまなアクションに取り組んでいます。使い捨てのスティックのりを詰め替え式に変更する提案を行い、小学校全体での導入が始まるなど、身近な課題に対して具体的な変化を生み出しています。また、Tetra Pak(紙パック)を洗浄・回収して工場に送り、トイレットペーパーなどにリサイクルする活動、自動水やり装置の開発、リサイクル素材を活かしたクラフト制作やフードフェアでの寄付活動など、多様なプロジェクトが進行中です。
さらに、Roots & Shootsユース会議では、動物の視点から自然破壊を描いた創作ストーリー「ミスターH」の朗読も行われ、命や環境の尊さを伝える取り組みも行われました。子どもたちは「小さな行動が大きな変化につながる」と信じ、次の世代へとその思いをつなげています。


ファーストステップ下関 First Step Shimonoseki
山口県下関市と山陽小野田市で活動する「ファーストステップ」は、小中学校の違いを超えて集まった11人の子どもたちのグループです。この日、グループの一人が、下関からはるばる東京の会場まできて発表してくれ、オンラインで山口県の仲間も参加してくれました。
最初の活動はごみ拾いでした。犬がタバコの吸い殻を食べてしまったことや、町の汚れ、生き物への影響をきっかけに始めました。そしてこれまでに海岸清掃を5回、町や自宅周辺でもごみ拾いを行ってきました。海岸でカブトガニの死骸を見つけたことで自然への関心が高まり、日本最大級の干潟が身近にあることにも気づきました。
もう一つの活動は犬と猫の保護です。殺処分ゼロを目指し、まず保健所の方を招いて講座を開催。資金集めのためにソイキャンドルを作って販売し、保護団体へフードやおもちゃ、寄付を届けました。現在は譲渡会のポスター貼りを手伝いながら、カリフォルニアのグループとのビデオレター交流も行っています。これまでの活動を通して、「もっと知りたい・もっとやりたい」という気持ちが強まり、これからも「できる人ができる時に」楽しく活動を続けていきたいと語ってくれました。



森と動物 Mori to Doubutsu
「Mori to Doubutsu」は、家族や親戚、友人たちで構成された小さなグループで、自然や動物、そして人々の暮らしを大切にする活動を続けています。アメリカ・ニュージャージー州で過ごした経験をきっかけに野生動物への関心が高まり、ジェーン・グドール博士の活動や絶滅危惧種への理解を深め、将来は動物学者になるという夢を抱くようになったそうです。
街のごみ拾いやペットボトルキャップの回収、古着の再利用やフードドライブへの参加を通じて、身近なところから環境へのアクションを起こしています。また、養蜂場の見学をきっかけに、サステナブルな暮らしを広めるため、みつろうラップ作りのワークショップを開催。Roots & Shootsカンファレンスでも実施し、参加者にエコな選択を伝えました。
昨年訪れたザンビアの村では、通学に片道1〜2時間以上かかり、野生動物との危険な遭遇もありました。子どもたちの教育環境を整えるため、模擬授業体験イベントを通じて資金を集めたり、クラウドファンディングを実施。第1回では窓や椅子、屋根材などを提供し、現在は壊れた校舎の修繕費用を募っています。今回のクラウドファンディングでは、ハルキヤコーヒーさんと連携し、返礼品にコーヒーを用意しています。さらに、グループ名「Mori=森」に込められた思いの通り、オリーブの木を家庭で植えるなど、木を守る活動を行っています。ザンビアのメンバーも学校周辺で6本の木を植えました。また、山田養蜂場の「ミツバチ1枚画コンクール」にも参加し、絵を描くことで一本の木が植えられる仕組みに貢献しています。
「動物・地域・子どもたち」の未来を少しずつよくしていくために、活動を継続していくと語り、自分たちの思いが誰かの行動のきっかけになればと、温かく力強いメッセージを届けてくれました。



ドリームビルダーズ Dream Builders
Dream Buildersは、小学生たちが中心となって立ち上げた環境・社会課題に取り組むチームです。メンバーは、学校での学びやドキュメンタリーとの出会いをきっかけに、気候変動やプラスチックごみ問題に危機感を覚え、「自分たちにもできることがある」と行動を起こすようになりました。チームのスローガンは、「Small steps, big impact(小さな一歩が大きな影響に)」。子どもだからこそできる行動の価値を信じ、仲間とともに一歩ずつ持続可能な未来を目指しています。
エコチャームの制作と販売を行い、捨てられたペットボトルのキャップを使ったアクセサリー作りを通じて、リサイクルの大切さを広める活動。第3回NEOアワードでグランプリを受賞しました。また、NASAとの教育プログラムへ参加し、北極の氷の融解と海面上昇、二酸化炭素と気温上昇の関係など、地球規模の環境問題を解説する動画を制作しました。
さらに、エコ・エクスプローラーズ・キャンプ2025を開催し、東京大学グローバル・コモンズセンターの関口友則研究員やアースデイ東京と連携し、子どもたちが体験しながら学べる環境教育キャンプを企画しました。
また、地域とのつながり強化とクラウドファンディングを実施し、今年は50万円をクラウドファンディングで集め、地域との連携を深めるために「DBスマイルパートナーズ」という仕組みも立ち上げました。
Dream Buildersは、創設時の3人から約30人へとメンバーが増え、名古屋支部も立ち上がるなど活動を全国へ広げています。ジェーン・グドール博士の姿勢に学びながら、「未来はただ願うものではなく、自分たちの手でつくるもの」という信念のもと、小さな行動を積み重ねています。


ドリームビルダーズ Dream Builders
環境が大好きな6年生のKarenさんと、その活動に影響を受けた4年生の弟・Fugaさん。2人はDream Buildersのメンバーとして、「子どもにもできることがある」と信じ、日々行動を積み重ねています。グループのリーダー・Mireiさんが、小学校2年生のときに魚の中からプラスチック片を見つけた衝撃をきっかけに環境問題に目覚め、チームを立ち上げました。その想いに共感した仲間が集まり、活動が少しずつ広がっています。
初期は保護者の協力を得ながら商品販売や資料作成を行いましたが、中学生になった今は、大阪万博の発表準備も自分たちだけで取り組めるようになりました。年齢に関係なく、子どもたちにもできることがたくさんあると実感したそうです。また、グレタさんの勇気ある行動を映画を通じて知り、「便利さを手放してでも未来のために行動する姿が本当に尊敬できる」と感じたとのこと。
そして、プロギング体験(ごみ拾い+ジョギング)を通して、身近な道路にも多くのごみが落ちていることや、逆にきれいに保たれている場所もあることに気づき、地域を見る目が変わったと語ります。日々のリサイクルや発信活動も積極的に行い、ノートの紙をすべて使い切る、不要な紙を再利用するなど、小さなアクションにも意味があると信じ、SNSやイベントを通じて行動を広げています。「子どもでも、大人でも、年齢に関係なく“社会を思う心”が大切」と2人は呼びかけました。


品川インターナショナルスクール Shinagawa International School
品川インターナショナルスクールの6年生たちは、ルーツ&シューツの活動の一環で、2024年12月に由比ヶ浜海岸を訪れました。自然の豊かさに連れる海岸探索をするとともに、海岸に漂着したゴミを拾いながら、マイクロプラスチックがどのようにして海の生き物や私たちの食卓にまで影響を及ぼしているかを学びました。ふるいを使って砂の中からマイクロプラスチックを取り除く方法を学ぶほか、貝殻を観察したり、海の生物について知識を深めました。
また、高校2年生を中心とする生徒会チームは、開発途上国におけるポリオワクチン不足の問題に注目しました。ポリオは感染力が高く、治療法のない病気ですが、ワクチンによる予防が可能です。この課題に対して彼らが始めたのが、ペットボトルキャップを集めてワクチン資金に変えるプロジェクトです。集めたキャップは「世界の子どもにワクチンを 日本委員会(JCV)」を通じてリサイクルされ、得られた利益でポリオワクチンが購入されます。1年間で集めたキャップの数は26,000個以上。これはなんと2,626回分のワクチンに相当します。この活動は、医療格差という社会課題を学校全体で考えるきっかけとなり、とくに年少の生徒たちにとっては「小さな行動が世界を変える力になる」ことを体感する重要な経験となりました。



城北埼玉高等学校, 新渡戸文化高等学校, 都立小石川中等教育学校 JOHOKU SAITAMA HIGH SCHOOL, Nitobebunkagakuen High School, Tokyo Metropolitan Koishikawa Secondary Education School
「いのちの旅」は、去年「いのちをつなぐ学校」主催のボルネオ学習ツアーに参加した彩瑚さん、ひららさん、澄風さんを中心としたグループです。現地では、ボルネオゾウやオランウータンの保護施設を訪問し、アブラヤシ・プランテーションでの収穫体験、野生動物の観察など、自然と人の関わりを体感しました。実際に野生のボルネオゾウに出会った経験などを通して、「環境問題は遠い世界の話ではない」と強く感じたといいます。
今年4月の「アースデイ東京」では、ボルネオでの学びをもとに展示と発表を行いました。多くの人にとって、地球規模の環境問題が「自分ごと」として捉えられていない現実を目の当たりにし、「知る・考える・動く」ことを通じて、一人ひとりが主体的に未来を選びとる必要があると感じたといいます。
そこで次のようなミッションとビジョンを掲げ、仲間を広げようとしています。ミッションは、「未来を創る人に、知る・考える・動くきっかけを届ける」。そしてビジョンは「 熱帯雨林の生態系を知り、課題を考え、自分らしい形で行動することで、自分ごとの意識を育てること」。知るきっか、考えるきっかけ、動くきっかけを作り、これらのサイクルを循環させることで、環境問題に向き合い、共に考え、行動する仲間を増やしていくことを目指しています。
また、榎本さんと中村さんは、ボルネオ島の動物保護と持続可能なパーム油の利用促進を目的とした「ミニャクプロジェクト」を展開しています。きっかけは授業で見たオランウータン保護の映像。麻布大学の塚田教授の指導のもと、認証マーク(RSPO)に関する認知度調査や商品調査、企業への質問などを行ってきました。学内アンケートでは96.5%がRSPOマークを知らないと回答し、商品の流通量も他の認証マークに比べ少ない傾向が見られました。企業への質問では、日清が「消費者の信頼や環境配慮のアピールにつながる」と回答。今後はボルネオ支援の自販機設置やアースデイ東京での活動参加も目指しています。
そして、嶋瑚心さんが取り組む「ロードキルプロジェクト」は、車と動物の衝突事故=ロードキルに対する社会の認知度を高めることを目的としています。きっかけは「人間の活動によって動物が命を落としているのに、問題が広く知られていない」という疑問でした。活動は、文化祭でのポスター発表をはじめ、中野区役所や首都高速道路への取材を通して社会の構造や制度の壁にも目を向けてきました。新たな対策が「前例がない」という理由で進みにくいという日本社会の傾向に触れ、「世論の意識が変われば動かせる」という可能性にも気づいたといいます。そこで嶋さんが選んだアプローチが、「ゲーム」です。楽しみながら知識を深められるツールとして、クイズやミニゲームを組み込んだアプリを開発中で、今後はさらに改良を加えて完成を目指しています。



横浜インターナショナルスクール 高等学校 Yokohama International School High School
横浜インターナショナルスクールの高校1年生チーム(リーダー:Renaさん)は、中学時代にRoots & Shootsに触れたことをきっかけに、環境・動物・人への思いやりを軸にした活動を展開しています。
彼女たちは、リサイクル意識の向上(SDGs目標12)、絶滅危惧種の保護(目標15)、社会的に孤立しやすい子どもたちへの支援を柱に活動中。ジュースの紙パック(テトラパック)回収キャンペーン「Tetra Pak Send it Back」を立ち上げ、回収したパックは工場へ送り、トイレットペーパーなどへ再生しています。また、使い終わった紙パックから手作りのポストカードやしおりを作り、コンゴ共和国のチンパンジー「アンザック」の支援にもつなげています。
地域のリサイクル率の低さを実感した彼女たちは、横浜市との連携やリサイクル意識改革にも挑戦する予定です。「すべてのゴミが“燃やすもの”ではない。資源になるものもある」——その気づきから始まった彼女たちのアクションは、日々、学校や地域に変化の芽を育んでいます。


国際基督教大学 International Christian University
最後に登壇した国際基督教大学(ICU)SDGs推進室は、大学という多様な立場と価値観が交わる場の強みを活かし、学生・教職員・学外のステークホルダーをつなぐハブとして、持続可能な未来づくりに取り組んでいます。
2024年には、エシカル消費をテーマとした「エシカルマルシェ」や、学生たちが主体的に意見を交わす「Youthエコフォーラム」を開催。ICU祭では、構内で伐採された竹を使ってランタンを制作するワークショップを実施し、自然資源と人のつながりを体験的に学ぶ機会を創出しました。
また、定期的に実施されている竹林の整備やネイチャーウォークでは、キャンパスという“学びの場”そのものが自然と向き合う教材として活用され、教室外での環境教育が行われています。
その他にも、フェアトレード製品の啓発活動、古着の交換会や回収イベントなど、日々の生活に根ざしたアクションを通じて、「私たちにもできること」が可視化される仕掛けが散りばめられています。
大学だからこそできる、学びと実践の循環。ICU SDGs推進室の活動は、個人の気づきを社会的な変化へとつなげる力を育み続けています。
16:45
植林アクティビティ


最後に、ジェーン・グドール博士は、少し笑いを交えながらこう語りました。
「突然この場を締めくくる役を任されてしまいましたが(笑)、今日登壇してくれたRoots & Shootsのみなさんの活動の幅広さに、本当に感動しました。そして、こうした活動がいま、世界の75の国と地域へと広がっていることを思うと──このムーブメントを始めたときの私の想いが、少しでも皆さんに届いているのではないかと感じています。
これは、私がこの世を去ったあとも、きっと育ち続けていくものだと信じています。今日発表してくれた皆さん、本当におめでとうございます。そして代表として来てくれた方々は、ぜひグループのみんなにも『ありがとう』と伝えてくださいね。そして、今夜の発表を通して、私が皆さんから大きなインスピレーションを受けたように、皆さん自身も何かを感じ取ってくれていたら、とても嬉しいです」
この日、博士は、国際基督教大学(ICU)のキャンパス内で進められている雑木林再生プロジェクトの一環として、コナラの苗木を植樹しました。地球のレジリエンス(回復力)を信じ、世界中で希望の種をまき続けてきた博士。植えたコナラの若木に、そっとキスを送る姿は、未来への祈りそのものでした。
博士とともに過ごした時間は、多くの人にとって、自然とのつながりをもう一度深く感じるきっかけとなったのではないでしょうか。
PHOTO: KAORI NISHIDA
共催
国際基督教大学 / Educators For Future
後援
駐日英国大使館
DAY 3
平和を希求して
Peace, Hope, and Roots & Shoots
6/14 (SAT) 13:00 - 17:30