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2025 6/13 (FRI)
DAY 2
希望の光を未来へつなぐ
~次世代のためにできること
Lighting the Path of Hope

少女“ジェーン・グドール”を支えた、母親の存在
ジェーン博士は、世界のあらゆる人々に、生命の尊さ、人間が自然と調和して生きることの重要性を訴え続け、なかでも多くの若者をインスパイアし、そこに大きな希望を見出してきました。
基調講演2日目は、「希望の光を未来へつなぐ──次世代のためにできること」と題し、ジェーン博士の基調講演ののち、その示唆を踏まえ、様々な立場でユースをエンパワーする5名と、私たちは次世代のために何ができるのか、そして、"知ること"と"行動すること"をブリッジし、希望の種をどう育てるかについてクロストークを実施しました。
18:30
オープニング

本講演は、公益財団法人五井平和財団による「講演会シリーズ:21世紀の価値観」の第70回特別企画として、ジェーン・グドール インスティテュート ジャパン、そしてエデュケーターズ・フォー・フューチャーとの共催で開催しました。
オープニングでは、五井平和財団理事長の西園寺裕夫よりご挨拶いただき、2024年にジェーン博士が「五井平和賞」を受賞したことが紹介されました。五井平和賞は、2000年の創設以来、教育・科学・文化・芸術など、様々な分野において、地球と人類の未来に真の平和と調和をもたらす上で、顕著な功績があり、当財団の生命憲章の理念原則と同じ方向性を持つ個人や団体を顕彰している国際的な賞です。
18:35
ジェーン・グドール博士による基調講演



ジェーン・グドール博士の語りは、4歳の頃、ニワトリの卵がどこから出てくるのかを知りたくて、何時間も鶏小屋に隠れていたという幼少期のエピソードから始まりました。
「卵が出てくるような穴が見当たらない。いったいどこから現れるのか──ただただ不思議で、鶏小屋でじっと4時間待ち続けました。そして、初めてその瞬間を目撃したときの興奮は、今でも忘れられません。でも、もしあのとき、母が“勝手にどこ行ってたの!”と怒っていたら、科学者としての好奇心はつぶされていたかもしれません」。このエピソードには、博士が一貫して伝えてきた、「子どもの好奇心を育むことの大切さ」と「理解ある大人の存在」が、未来を変える力になるというメッセージが込められています。
世界中の人々から愛される(いや、むしろ“地球に愛されている”と言ったほうが的確かもしれません)ジェーン・グドール博士。そんな彼女が夢をつかむまでには、母親を始め、人生を支えた大人たちの存在がありました。たとえば、祖父からは「人を肌の色や言語、文化ではなく、その人がどんな人間かで判断しなさい」と教えられて育ちました。その教えがあったからこそ、初めて訪れた南アフリカでアパルトヘイトの現実に強い違和感を抱いたと言います。
そして運命的な出会いとなったのが、タンザニアでのルイス・リーキー博士。彼は、ジェーンを「10年待った逸材」と称し、まるで出会うべくして出会った存在だったのだろう。ジェーンの物語は、自らの力で道を切り開きながらも、要所要所で大人たちの支えがあったことを物語っています。
それは興味深いことに、チンパンジーの世界でも同じだと博士は言います。母親と多くの時間を過ごした子どもは、大人になったときにリーダーシップを発揮しやすいのだと。そしてその支え手は、必ずしも母親とは限らない。群れの中の別の大人が、子どもを育てることもあるのだというのです。
博士は1991年に立ち上げた「Roots & Shoots(ルーツ&シューツ)」についても紹介しました。「私たちは、理解して初めて関心を持ちます。関心を持って初めて、行動に移すことができます。そして行動して初めて、希望が生まれるのです。だからこそ、若者に“自分には世界を変える力がある”という感覚を届けることが、何よりも大切なのです」と話しました。
最後に、盲目のマジシャンであり友人でもあるゲイリー・ホーン氏から贈られたぬいぐるみ「Mr. H」を掲げ、こう締めくくりました。「もし困難なことが起きても、あきらめないで。私たち人間には不屈の精神があり、必ず前に進む道はあるのですから」
19:25
様々な立場で教育に携わる方々のクロストーク

どんなに「もう無理だ」と思うような崖っぷちに立たされても、不思議とジェーン博士は、その運命さえも良い方向へと引き寄せる──そんな力を持っていると感じる瞬間があります。だからこそ、彼女の心から届く言葉は、私たちに「諦めずに続けるための翼」を授けてくれるのだと思います。そして、彼女の言葉に触れるたび、心の奥にそっと火が灯るような感覚を覚えるのです。
「We are all interconnected(私たちは皆、つながっている)」──このジェーン博士の言葉は、自然だけでなく、人と人との関係にも当てはまります。日本でもまた、ジェーン博士は多くの人の心をつなぎ、共に歩む仲間を育んでくれました。この日も、彼女に導かれるようにつながった5名のゲストとともに、教育や地域の現場で子どもたちと向き合う中での学びや、「知る」から「行動する」へのプロセス、そして希望の種の育て方について語り合いました。

海や山といった自然を舞台に、子どもたちがありのままでいられる学びの場をつくり、うみのほしの代表として、フリースクールや学童など多様な居場所を運営する今村直樹さんは、「自然の場が持つ力は圧倒的だ」と語ります。
海や山は、まるで“玉手箱をひっくり返したように”子どもたちの五感を刺激し、知ることや学ぶことを超えた経験を与えてくれる──それが、今村さんが実感している“場の力”です。その自然に子どもを連れて行くためには、現場に立つ大人の“勇気”と“覚悟”が必要であり、そこに自らの役割を見出しているとも語りました。単に知識を伝えるのではなく、自然の中で遊び、発見し、身体ごと経験することが、子どもたちにとってかけがえのない学びになる。そしてその体験が、時を経て「比較の軸」として子どもたちの中に残り、将来、地球の変化や喪失に気づく目となる──それが希望につながるのだと話しました。
また、海辺での活動「ビーチコーミング」を例に、海洋ごみ問題に対する実践的な学びも紹介。映像で海の生き物たちの話を見たあと、実際の海岸に出て“宝物探し”のように、自然のものから人工物まで、色とりどりの物を拾う子どもたちの姿は、楽しく遊びながら社会的な課題に気づくプロセスそのものです。「楽しい」という感情の中にこそ、学びの入口がある──そんな想いがにじんでいました。
「私たちができるのは、“楽しい”の中に自然と学びが入ってくるような体験を用意すること。あとは、自然と子どもが勝手に出会ってくれる」と今村さん。未来を担う子どもたちに、小さくても確かな“自然との記憶”を手渡す。その体験が、大人になったときに希望をつなぐ光になると話してくれました。

食を通じた学びを広げる「エディブル・スクールヤード・ジャパン」でキッチン&ガーデンティーチャーとして、全国の学校や保育園で、畑や給食の時間を通して“生きること”を学ぶ教育の実践に取り組む風間理紗さん。学校という場の中で“Beauty is the language of care(美しさは思いやりの言葉)”という信念を持ち、子どもたちの感性や内なる気づきが自然に引き出されるような環境づくりを大切にしていると語りました。
校内にある畑やキッチンガーデンは、子どもたちにとって単なる学習の場ではなく、日々の暮らしの中に美しさやつながりを見出す大切な場所となっています。授業の中で、始まりの輪を大切にし、丁寧に設えられた空間の中で、子ども自身が自分の感性でその日の重要なメッセージを見つけていく──そのプロセスが、学びの喜びと自信を育むのだといいます。
また、活動の最後には「終わりの輪」を大切にしていることにも触れました。一つのイチゴをじっくり味わい、その小さな体験をみんなで分かち合い祝福(セレブレイト)する。そこには、知識や結果ではなく、「喜びをともに感じること」そのものの力があり、その経験こそが心に残るものなのだと語りました。
風間さんは、希望の光を「蛍の光」にたとえます。きれいな水辺にだけ現れるホタルのように、子どもたちの中に宿る光も、その周囲にある丁寧な暮らしや哲学によって育まれるもの。日々の積み重ねの中に希望の光を育てることの大切さを、優しく、しかし力強く伝えてくれました。

新渡戸文化中学校・高等学校の副校長として、生徒主体の探究学習をリードする山藤旅聞さん。学校という枠を越え、社会との接続の中で、子どもたちが自ら問いを立て、行動する力を育んでいます。公立・私立の教育現場での実践経験をもとに、山藤さんは「子どもたちの学びに必要なのは、“感情が震える瞬間”」だと語ります。檜原村や海、川、さらにはボルネオ島の森林など、フィールドでの学びを大切にし、子どもたちを現場へと連れて行く実践も行ってきました。
また、毎週水曜日を「丸一日自由に使える日」とし、生徒たちが外の世界に出たり、ものづくりをしたり、時にはただ静かにゆっくりと過ごすことも選べる探究の時間を設けています。そこで生まれた問いをきっかけに、生徒と共に“情熱を注ぐ大人”に会いに行くことも。「火がついている大人に出会う。それが何より大切だと思っています」と語ります。それはまさに、「知る」ことから始まる“生きた学び”なのだと。「ポジティブでもネガティブでも、感情が動いた瞬間がスタートライン。美しい海をもっと見ていたい、生きものが苦しむのは嫌だ──そんな気持ちに共鳴してくれる熱い大人との出会いが、子どもたちの次の行動につながっていく」とも。
また、「未来を子どもに“全部託す”という発想には違和感がある」とも率直に語ります。子どもたちの力は確かに大きい。でもそれを支える大人──研究者、教育者、財団などの存在がなければ、継続的なアクションにはつながらない。だからこそ、大人にも確かな役割がある。
最後に、「希望の光は、子どもたちそのもの」と話すように、子どもが何かに向き合おうとした瞬間、そしてそれに情熱を注ぐ大人に出会った瞬間、文化や自然を守ること、課題を解決することなどの「時間が延長される」と山藤さんは表現します。子どもたちの目が輝き、共に問い、感じ、動く──それこそが、未来を照らす本当の希望だと、確かな言葉で語ってくれました。

渋谷区立臨川小学校の美術の先生として、日々の授業のなかで自然や地域とつながる学びを実践されてきた鈴木さん。講演の中で繰り返し語られたのは、「子どもたちの好奇心をどれだけ大人が信じ、寄り添えるか」という問いでした。「ジェーン博士がお母様に支えられてきたという話を聞いて、非常に胸が打たれました。自分は教室で、35人の子どもたちと向き合う中で、子どもたちの好奇心を見守っていけるよう接したい」
また、学校という制限の多い環境の中でも、「できること」はたくさんあり、学校の中で“体験に近づく工夫”を重ねてきました。例えば、環境問題を学ぶ本を教室に置いたり、“本物”を取り寄せて触れる時間を作ったり。さらには、子どもたちに「身近な社会で何が起きているか」を感じてもらうために、鈴木さん自らが地域を歩きながら撮った写真を通して、実感を伴った対話のきっかけをつくっていると言います。「外に出られなくても、“気づく力”を育てることはできる」と。
授業の中では、子どもたちの「やりたいこと」を大切にし、その思いを絵や映像で表現する活動も取り入れています。中には、自分たちの学びを地域に発信したいという子もおり、そんなときには企業や団体などの外部とのつながりを活かして、「大人も子どもも一緒にワクワクして、好奇心や探究心を高める授業をしていきたい」と話しました。

五井平和財団にて、青少年教育プログラムを担当する吉川里香さん。吉川さんは、ジェーン・グドール博士が会場に現れた瞬間の印象をこう振り返りました。「イギリスから台湾へ向かい、こうして日本に来られてこの後またタンザニアへ行くという、ご多忙なスケジュールをこなされているのに、入ってこられたときのあの穏やかな佇まいに私は一瞬で引き込まれました」
その姿に重なるように、今日ここに集った登壇者や、子どもたちとともに歩もうとする大人たちの存在が、“希望の光”に思えたと吉川さんは続けます。そうした人たちに出会うことで、子どもたちは“感じる心”に気づき、自分の中にも何かあたたかな光が宿っていることを発見するかもしれない──そうした小さな気づきの積み重ねが、やがて誰かを照らす光にもなっていくのではないでしょうか。

PHOTO: KAORI NISHIDA
共催
公益財団法人 五井平和財団 / NPO法人 ジェーン・グドール・インスティテュートジャパン / Educators For Future
後援
駐日英国大使館
DAY 2
希望の光を未来へつなぐ
Lighting the Path of Hope
6/13 (FRI) 18:30 - 20:15